永遠の旅人日記

好奇心一杯に生きて来た人生。テーマは、女性用バイアグラから橋下徹まで、かなり広範囲。

アメリカ全寮制高校の生活

アメリカの全寮制高校(いわゆる ボーディングスクール)が、どのように運営されているのか、私の息子の体験談です。(長文です)

はじめに

これは、私がが2000年のはじめに、3年在校していた、アメリカ合衆国コロラド州の全寮制の高校での体験録です。アメリカの高校は。通常日本で言う所の中三から高三までの4年制なのですが、私は中学校を卒業していたため、sophomore(2年生=高1)として入学しました。
この学校は一学年40-50人ぐらいの、非常に小規模でありながら、一方で海外からの留学生が30%超という、グローバルな環境でした。

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学業

高校ですが日本の大学の様に、時間割はある程度自分で組めるようになっています。これは個々の生徒のバックグランド、得意教科、及び興味が違うということを背景にしています。
具体的な例を挙げると、私の場合、最初の一年間は英語はESL(英語が母国語でない人向けの授業)を受ける一方、数学は通常の高1向けの数学を取っていました。これが二年目の高2になると、英語はEnglish I (中3の英語)、一方数学はAP Calculus (大学生レベルの数学)という風になりました。つまり、苦手と言うか母国語で無い英語は高2にして中3に混じった授業、一方数学は得意な人が集まって大学レベルの授業を受ける、というわけです。

数学・英語・理科は、上記のように自分のレベルに応じた授業を選ぶ事になるわけですが、他の科目は、自分の好みに応じて選ぶようになります。例えば歴史であれば西洋史/アメリカ史/政府といった選択肢、芸術であれば写真/陶芸/絵画、外国語であればスペイン語/フランス語/ラテン語といった感じの選択肢があります。

良い学校であればあるほど、授業の選択肢が幅広く、どのような生徒のニーズにでも応えられるようになっています。例えば、私の学校は中堅で、数学・歴史・英語・理科などの主要科目についても、AP(大学レベルの授業。大学によっては、単位としても認めてくれる)も一科目につき1~2つありましたが、これがレベルの高い進学校になると、4~5種類位揃うことになるわけです。

授業のほうも、クラスによってサイズが違うとは言え(一番小さい時は3人、一番大きい時でも15人程度という)非常にアットホームな環境、加えて必ず授業に参加(質問する、意見を述べる、問題に答える等)する必要があったため、ろくに居眠りすることもできない状態でした。

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スポーツ

私の学校では、授業とは別に毎日2時-5時ぐらいがスポーツの時間として取られており、こちらは基本、全生徒参加になっていました。ただスポーツと一口に言っても、これまた選択肢が幅広く用意されているため、あまり「強制されている」という感覚はありません。
シーズン(秋・冬・春)ごとに選べるスポーツは違うのですが、例を挙げると、次のような感じです。
 チーム競技:サッカー、バスケ、ラクロス、バレーボール、ホッケ
 個人競技:陸上、クロスカントリーレスリング、水泳、テニス
 レジャー:アウトドア、スキー、乗馬、クライミング

面白いのは、高校レベルでも、その学校の強さに応じて、所属するリーグが異なることです。例えば私の学校は人数もすくなく、基本弱かったたのですが、女性のラクロスチームは結構強く、コロラド州内においては「一流」の高校リーグに所属していました。チーム内での切磋琢磨も激しく、リーグ戦に参加する「一軍」に入れるか、入れないかと言うので皆競い合っていました。

私は、個人主義の人間だったため、個人競技やレジャースポーツばかり取っていました。ここで良かったのは、特に陸上はそうでしたが、コーチ郡による徹底的な「自己新」志向・追及でした。人間生まれ持ったものがあるので、常に他人に勝てるとは限らないけど、頑張れば常に自分に勝つことはできるという考え方です。私は易きに流れる性格なのですが、こういったスポーツトレーニングのお陰で、少しはストイックさが身に着いたと考えています。

スポーツのためであれば、ある程度学業への融通が利くというのも面白い点でした。例えば私が乗馬に関わっていた時の事です。チーム全体で隣町だった、デンバーでの乗馬大会に出る事になったのですが、これが通常の平日・学期中だったので、授業の方はどうするのかなーと思っていた所、あっさりと先生達からは「あーいいよ、行って来なー」という感じで許可を得られました。

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また、一部の本当に才能のある生徒に関しては、学校のスポーツ参加を免除され、個々のトレーニングを受けている人たちも居ました。一学年下だったある女の子は、あまりぱっとしない感じの子だったのですが、なにやらゴルフの腕は相当良かったらしく、毎日ゴルフ場に言って練習したり、時々トーナメントに参加したりもしていたようです。この子はその後、ゴルフの腕一本でアイヴィーリーグの名門大学に入学したと聞きました。

寮生活

この学校のロケーションを一言で表すとすると「僻地」になります。歴史を紐解くと、元々はコロラド州の大牧場の持ち主だった人が土地の一部を売り払い立ち上げた学校なだけあり、牧草地に囲まれている以外、周りには何もありません。当然、車をもって無ければ、歩いて学校の外に出ることもできない環境です。

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そのため生徒は皆、寮生活になります。大体は二人部屋になっており、早い段階から「他人と住むこと」に慣れさせられます。一方、成績優秀な最上級生に限って、一人部屋を貰うこともできるため、これが学業で頑張るインセンティブになるわけです。私は在学中、結局3人のルームメイトと住むことになったのですが、どれも中々記憶に残る経験でした。

一人目はオクラホマ州の出身。彼奴は、いつも寝るときに音楽をつけっ放しにするという悪癖の持ち主でした。最初は私も何も言わず我慢していたのですが、数日で睡眠不足になり、つたない英語で文句を言った所、あっさりと辞めてくれました。この時、アメリカ社会における大原則「何か欲しかったら、言わない事には始まらない」と言う事を思い知らされました。

二人目はカリフォルニア州の出身。彼は、大分まともなルームメイトだったのですが、若干モテ過ぎたのが珠にキズでした。ある時など、その時ガールフレンドだったドイツ人の女の子が窓から忍び込んできて一晩中イチャイチャするなど、こちらを寝不足にしてくれやがいました。

三人目はイリノイ州の出身。彼は、向上心を持った、根もいい奴なのに、あまりにもKYだったため、同級生から煙たがられるという難儀な目にあっていました。結局彼は大学に進学後、中退し地元に戻り、そこで自分の会社を立ち上げ、なかなか上手くやっていると言う話です。狭いムラ社会の中での評判や評価は本質的ではないのだな、と言う事を実感しました。

アメリカの大学は、どこも最初の一年は寮にルームメイトと住むことになっている為、こういった全寮制の高校は、その予行練習みたいなものだったわけです。

息抜き

全寮制だと、家と学校の区別が無くなってしまう為、自然と息抜きの重要度が高くなります。学校もこのあたり良く分かっていて、週末にもなると、生徒向けに数多くの外出プランが用意されます(生徒は皆家族と離れて学校に来ているため、どの場合でも先生が保護者として同行するようになっています)
外出プランは大体以下のような感じです。
 買物:モール、ウォルマート、一ドルストア(100円ショップみたいなもの)
 食事:街の中心部、アービーズやチポーレ等のチェーン店
 レジャー:映画、ハイキング、ジョギング、バイク
 宗教:日曜日の教会

私はこれでも十分に充実していると思っていたのですが、周りにはこれで満足できず、問題を起こす人も居ました。

  • 寮のトイレでマリファナを吸っていて捕まったロシア人の奴、
  • (どうやったのか不明ですが)10歳ぐらい年上のボーイフレンドを作って退学処分を受けた女の子
  • 学校を徒歩で脱走しようとして途中で捕まった日本人(私ではありません) 等々。

学校もこのあたり分かっているのか、あの手この手で学生の満足度を高めようとしてくる訳です。ちょっと変わった例で言うと、私の学校には、校長が一学期に一日、全くランダムな日に「明日は休校!」と発表する「校長デー」なるものが存在していました。毎回、発表後はちょっとしたお祭り騒ぎで、皆でボーリングに行き、非常に不味いピザを大量に食べるのですが、これがまた中々に楽しいのです。いつ校長デーになるか、校長以外には誰も知らないと言うのも、またワクワク感を演出するのに一役買っているわけです。

全寮制高校、経営の基本

ビジネスの観点で振り返ってみると、在校時には明確には見えてこなかった点も浮かび上がってきます。まず、全寮制の高校に限って考えた時の顧客ニーズ/競合/学校の戦略というと次のように整理されます。

顧客ニーズ
ここでは、お財布の握り主である「生徒の親」が一番重要になります。
家族によって優先順位は違いますが、大体のニーズをまとめると以下のようになります。
 ① 良い大学に入ってほしい
 ② 多種多様、良い経験を積んで欲しい
 ③ 安全・健康で居て欲しい(≒ 学校にちゃんと監視して欲しい)
これは一部の生徒だけでしたが「出来るだけ、家から離れた所で暮らして欲しい」という特殊なニーズもありました(親が再婚したばかりで再婚相手と子供の仲が良くないという話や、親がロシアのギャングなせいで、ロシアに居ると誘拐される可能性があり危険だから、等々)

競合

競合の種類としては、大体大きくわけて二つあります。一つは他の私立、もう一つは地元の公立校。特に公立校は全寮制に比べ圧倒的に安い(場合によっては、10分の1程度)ため、全寮制の学校としては自分の売りを明確に打ち出さないと、勝てないようになっています。

学校の戦略

これらを踏まえた上で、学校がどう言った手を打つかというと、大体以下の2つに大別されます。

① 一流大学への進学率を増やす
最終的には、前年の生徒がどういった大学に進学したのか?というのが一番重要な指標になるため、学校としてはそれを最優先で伸ばそうとするわけです。具体的に言うと
 ・前述、AP(大学レベルの授業)を増やす。それを教えられる優秀な先生を雇う
 ・学業以外で売りになるような、課外活動・経験を多く取り揃える
 ・更に、大学受験プロセス(エッセイ書き、インタビュー等)を専門的に手助けするスタッフを雇う
 ・(私の学校は、あまりやっていませんでしたが、学校によっては)入学時点で厳しく足きりを行う

② 生徒の生活を、厳しく管理する(一方で、ちゃんと息抜きもする)
前述したとおり、学校での生活はキチンと管理されており、大きくルールから外れたことをすると、キチンと罰せられるようになっています。
 ・ 一番厳しいのは退学処分で、これは大体一年に2、3人
 ・もっと多かったのは「コミュニティ奉仕」と呼ばれるもので、皿洗いや共同スペースの掃除等の雑用を一定時間するもので、これは大体一年に10-20人ぐらい(私もある時、学校集会をサボったのがばれて、10時間相当の罰を受けました)
 ・これ以外にも、罪によっては一部の「特権剥奪」的な処分もありました(週末の外出禁止、スポーツ参加禁止、夕方自室に戻っては駄目/共同スペースに居ないと駄目、等々)

まとめ

結局私はこの学校で3年間の高校生活を満喫し、そのままアメリカの大学を受け・進学することになりました。
日本の高校には行かなかったため比較は出来ませんが、この多感な時期に、すばらしく自由な環境で、自分で考える・行動する力を鍛えられ、多種多様な経験を積めたのは最高だったと思っています。