永遠の旅人日記

好奇心一杯に生きて来た人生。テーマは、女性用バイアグラから橋下徹まで、かなり広範囲。

シンガポールの奇跡

独裁国家 シンガポール

中国共産党もカダフィもマルコスも、独裁者は誰もが、民主主義より独裁国家の方が効率が良く、速く発展出来ると言う。

しかし実際は、批判を許さず、政敵を抹殺し、仲間内だけの利益を追求するのがオチだ。

民主主義より効率の高さ

こうした独裁国家のなかで、唯一、効率の良さという独裁国家の持つ良い面を追求して成功した国がある。
シンガポールだ。
シンガポールが独裁国家であることを知らないひとも多いと思うが、準独裁国家だ。
独裁者 リー・クアンユーは、今年91歳で亡くなったが、今でもシンガポールでの人気は高い。

シンガポールの概要

  • 面積は東京23区程度。
  • 人口 550万人 (東京23区の人口は900万人)
  • 華人 (74.1%)、マレー系 (13.4%)、インド系 (9.2%)

1963年マレーシアとして、英国から独立するも、露骨なマレー人優遇策を取るマレーシアと衝突。2年後にはマレーシアから追放される形で都市国家として独立。
それからわずか50年。日本の戦後より短い歴史だが、一人当りのGNPは、約5.6万ドルと世界で6位。アメリカより多く、日本の1倍半にまで発展した。
一体何故?と誰しも思うだろう。


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シンガポール発展の理由

何と言っても、リー・クアンユーの独裁的指導力と、その合理性。
いろいろ言われるが、超合理的であったことだけは、確かだ。

官僚の育成

リーは巧みだ。まずは、シンガポール大学を中心に自分の手足となる優秀な官僚を計画的に育て、若いうちから世界各国に派遣して各国制度の良いとこ取りを狙った。
また、民間企業を大きく上回る報酬を支払うこと、及び不正に対して厳罰をもってのぞむことにより、不正・腐敗を防いでいる。

投資環境の整備

マレーシアから放り出されるように独立した時点で、シンガポールには水も食糧も何もなかった。
天然資源が皆無で、資本もないシンガポールにとって、「外国資本の導入による発展」が唯一の道だった。

そこで、まずは税制や規制を見直し、海外資本を呼びこむ投資環境を整えた。

  • 法人税率が17%と日本の半分 (日本は35%)
  • キャピタルゲインが非課税
  • 会社設立が容易で、100%出資(個人株主・会社株主)が認められている
  • 法人を設立して3年間は税額控除による軽減措置がある
  • 知的財産権を法律で十分に保護している
  • 法制度、港湾、空港、通信、交通網の整備

などから、シンガポールは、何年も続けて「世界で最もビジネスをしやすい国」にランキングされている。
その結果、今やシンガポールにはグローバル企業500社のアジア拠点があり、「ヒト、モノ、カネ、情報」が集まる国に成長した、

加工業から知識集約型へ

90年代には製造業中心に転換。多国籍企業の林立する国際加工基地へと脱皮した。生産品も、繊維から、HDDなどの微細加工品へと、常に高付加価値化を意識し、2000年以降はバイオに注力し、今ではアジアにおけるバイオ産業のリーダーと目されるに至った。

税制と格差

考えてみれば、独裁国であれば、一番簡単にいじれてしかも効果が大きいのが、税制である。

シンガポールは、個人に対しても税制が優しい。
 相続税 0%
 贈与税 0%
 キャピタルゲイン税(株や土地の値上がりに対する税)0%
 住民税 0%
 所得税は、ざっと日本の半額以下
良い国ではありませんか。

これらからわかるように、シンガポールは金持に優しい国である。
それに惹かれて、世界中から金持ちが移住してくる。伝説の投資家、ジム・ロジャースもその一人。
従って、世界有数の所得格差も存在する。
例えば金融資産で1億円以上保有する富裕層は17%も居て、世界一(日本は3%以下)

経済の中心は中華系が押さえ、マレー系やインド系の住人は単純な仕事に従事している、という民族間格差もある。

金融のハブとしての発展

またシンガポールは、東南アジアにおける金融センターとしても発展を遂げ、今や

  • 世界第3位の外国為替市場、
  • 世界第4位の金融センター

にまで上り詰めた。
取引高や時価総額などの市場規模では東京や香港に劣るが、金融センターとしての、

  • 豊富な品ぞろえ、
  • 低税率、
  • 行政サービスの透明性
  • 英語が堪能で金融知識に精通した人材

などにおいて勝っている。

交通のハブとしての発展

東南アジアの中心に位置しマラッカ海峡に面しているという地政学上のメリットをリー・クアンユーが見逃すハズもない。

  • シンガポール港は120を超す国・地域の600以上の港と、約200の航路で結ばれている大貿易港。そのコンテナー扱い量は3000万個で、上海と世界の1,2位を争っている。(日本は全港湾を足しても1750万個で大きく遅れている)
  • チャンギ国際空港は2012年時点で、100以上の航空会社が週あたり6,100便を運行し、200都市、60カ国以上に就航しているアジア有数のハブ空港。空路のアクセスは抜群。
  • シンガポール航空は、何年も前から世界トップクラスのサービスで有名。

下記の図を見て頂ければ、シンガポールの立地上の優位性が一目でわかってもらえる、と思う。


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問題点

準独裁国家なので、問題点も多い。
人々の自由な往来、ビジネスの発展の裏で、反体制をことごとく潰しにかかる独裁体制を皮肉って「明るい北朝鮮」などと揶揄されることもある。

政治面

表面上は、民主主義国家ではあるが、与党に有利な独特な選挙制度のため、建国以来今日まで、事実上PAP(人民行動党)による一党独裁が続いている。
全部ではないが、得票が最も多かった政党が総取りできる選挙区があり、第一党が圧倒的に有利な制度となっている。
また、野党候補を当選させた地区を予算面で露骨に冷遇することもあったらしい。
しかも、政府批判をしたら国外退去、デモは一切禁止など、国民の政治関与がほぼ禁じられている。

実際のところ、政府は、独裁とはいえシンガポールを世界の経済大国に押し上げることに成功し、国民はその経済的恩恵を多大にこうむっているので、多少の不満には口をつぐんでいる、というのが実情だろう。

言論の弾圧

最も象徴的なのは言論の抑圧。
国境なき記者団の報道自由ランキング(2014年度)では調査対象国180カ国中、150位であるなど、言論の自由は極めて制限されている。
新聞は英語・華語など複数誌あるが、発行会社は全て同じらしい。
また、雑誌においても、非協力的な言動を行うものは、わずか数百部の発行しか認められないとのこと。

厳罰主義、罰金主義

世界の国の中でも、かなり厳しい死刑制度を持っている。特に麻薬関連に厳しく、モルヒネ・コカイン・ヘロインなど十数グラム持っていただけで即、死刑。

街中にはそこら中に罰金のポスターが貼られている

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ちなみに1シンガポールドル=85円くらい。
従って、禁煙のところで喫煙が見つかると8万5000円の罰金。


街中は勿論、民間マンションの中ま警察の監視カメラが張り巡らされている。窮屈だが、犯罪の発生率は、日本の約半分。

シンガポールの今後

先日のブログにも書いた様に、これからの35年は東南アジアの時代である。
2050年の、購買力は
 インドと中国以外のアジア諸国=アメリカ+日本+ヨーロッパ諸国
という予想である

eternal-traveler.hatenablog.com


これからの発展が期待できる東南アジアと巨大マーケットに成長した中国を考えると、シンガポールは最高の立地である。
一方、リー氏の長男であること以外に取り柄のないリー・シェンロン首相の求心力不足と野党勢力が台頭してきている、という現実もある。
また、シンガポールには物理的面積の制約もあり、それに目をつけた隣国マレーシアが、シンガポールとの隣接地帯(現在は熱帯雨林)を大開発し始めている、という事実もある。

おわりに

日本でシンガポールは、経済的にも最近発展している国、観光地としか知られていないので、準独裁国家だと知ってビックリされた方もいると思う。私もぼんやりとは知っていたが、正直ここまでとは思わなかった。
ただ、

  • 政治に対する批判と、言論の自由は大きく制限されているものの、それ以外の人権は擁護されている
  • PAP幹部が中国共産党幹部の様に裏金を貯め込んでいるという話もない
  • 逆に役人の不正に対して厳罰をもってあたる、というリー・クアンユーの清潔感が好感を持たれている
  • PAPに対する批判的な記事に対しても、一般的な独裁者のように即逮捕などと頭から抑え付けるのではなく、首相以下が率先して「名誉毀損による莫大な損害賠償を民事訴訟で請求」するなどの「順法抑圧」を行ってきた

等から、その独裁性がさほど大きく国際的な問題にはなっていない。
冒頭に書いた様に、「開発独裁」と呼ばれる形態で例外的に成功した唯一の国と言って良いだろう。

今回調べてみて、私にとってリー・クアンユーは、
「左派、共産主義、民族主義、イスラム原理主義者など、資本主義にとって有害な勢力を徹底的に弾圧し排除しながら、資本主義のあるべき姿に向かって邁進した『資本主義の権化』の様な人物」
に見えてきた。

話はかわるが、私の趣味のアルゼンチンタンゴの世界では、アジア各国で「国際タンゴフェスティバル」が開かれる。
3年ほど前、シンガポールで開かれたフェスティバルに参加して驚いた。東京フェスティバルの数倍もの参加者が居たのだ。その時、もはやアジアの中心はシンガポールであり、日本はアジアの北の端の国なんだ、と言うことを実感した。

シンガポールの将来については明暗あると思う。今後の東南アジアの発展を考えれば最高の立地だが、リー・クアンユーの死後、父親ほどのリーダーシップのないリー・シェンロン首相がどのように準独裁国家を舵取りしていくのか、見ものだ。 
また、既にここまで発展したのだから、「開発独裁」を続ける必要性もない筈。PAPも政権を失えば、これまでの「仕返し」をされることが怖いだろうけれど、うまく「民主化」に移行できれば、と思う。


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